概要

三国志演義(さんごくしえんぎ)とは、14世紀の明代初期に羅貫中によって書かれた、三国時代を題材とした長編歴史小説です。正史『三国志』を基にしながら、民間伝承や創作を加えて劇的に再構成された物語。

起源:元末明初(14世紀後半)に成立。それまでの説話や講談、戯曲などで語り継がれてきた三国志の物語を、羅貫中が集大成し一つの長編小説として完成させた。

単なる歴史記録を超えて、忠義・友情・知略・勇気といった普遍的なテーマを通じて、東アジア文化圏における価値観や道徳観の形成に多大な影響を与えた作品。

歴史上の実例

1. 羅貫中 vs 三国時代の物語

状況:元末明初、戦乱の時代に歴史小説を執筆

展開:正史を基に民間伝承を加えて120回の長編小説として構成。

結果:東アジア文化圏で最も影響力のある歴史小説の誕生。

演義

話説天下大勢、分久必合、合久必分

(天下の大勢は、分かれて久しければ必ず合し、合して久しければ必ず分かる)

― 三国志演義第一回

2. 毛宗崗 vs 三国志演義の改訂

状況:清代初期、演義の複数の版本を整理統合

展開:章回を120回に整理し、評注を加えて刊行。

結果:現在最も広く読まれる標準版の確立。

演義

読三国志者、当以正史為主、演義為輔

(三国志を読む者は、正史を主とし、演義を補助とすべし)

― 毛宗崗評

演義と正史の主要な相違点

創作された有名エピソード

エピソード演義での描写史実
桃園の誓い劉備・関羽・張飛が義兄弟の契りを結ぶ史実には記載なし
三顧の礼劉備が諸葛亮を三度訪問簡略な記載のみ
空城計諸葛亮が空城で司馬懿を退ける完全な創作
草船借箭諸葛亮が藁人形で10万本の矢を得る孫権の逸話を転用
華容道関羽が曹操を見逃す創作エピソード

人物像の変化

人物演義での描写正史での記載
諸葛亮神算鬼謀の天才軍師優れた政治家・内政家
周瑜諸葛亮に嫉妬する小人物呉の名将・度量の広い人物
曹操奸雄・悪役有能な政治家・文人
劉備仁徳の君主機を見るに敏な実務家
魯粛お人好しの凡人優れた戦略家・外交家

演義の文学的構造

全120回の構成

演義は全120回から成り、大きく5つの部分に分けられます:

  1. 第1-33回:黄巾の乱から官渡の戦いまで
  2. 第34-50回:三顧の礼から赤壁の戦いまで
  3. 第51-77回:三国鼎立から劉備の死まで
  4. 第78-104回:諸葛亮の北伐
  5. 第105-120回:三国の滅亡と晋による統一

主要なテーマ

テーマ具現化する人物象徴的エピソード
忠義関羽千里走単騎、華容道
仁徳劉備民を連れての逃避行
知謀諸葛亮赤壁の戦い、空城計
勇猛張飛、趙雲長坂橋、長坂坡の戦い
奸智曹操青梅煮酒論英雄

演義の文化的影響

東アジア各国への伝播

国・地域受容時期特徴的な展開
日本江戸時代『通俗三国志』翻訳、吉川英治『三国志』
朝鮮朝鮮王朝時代ハングル翻訳、独自の解釈
ベトナム阮朝時代チューノム(字喃)による翻訳
東南アジア近代華僑を通じた伝播、現地化

成語・慣用句への影響

演義から生まれた成語は数百に及び、日常会話でも頻繁に使用されています:

  • 三顧の礼:礼を尽くして人材を招く
  • 水魚の交わり:切っても切れない親密な関係
  • 泣いて馬謖を斬る:私情を捨てて法を執行する
  • 死せる孔明生ける仲達を走らす:死後も影響力を持つ
  • 白眉:多くの中で最も優れたもの

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